遺伝カウンセリングと遺伝カウンセラー

① 認定遺伝カウンセラーは遺伝医療を必要としている患者や家族に適切な遺伝情報や社会の支援体制などを含むさまざまな情報提供を行い、心理的・社会的サポートを通して当事者の自律的な意思決定を支援する保健医療・専門職である。
② 認定遺伝カウンセラーは、医療技術を提供したり、研究を行う立場とは一線を画し、独立した立場から患者を援助することが求められる。
③ 認定遺伝カウンセラーは、遺伝カウンセリングについて一定の実地修練を積んだ後に資格認定される専門職で、下記の要件を満たす必要がある。
●最新の遺伝医学の知識をもつ
●専門的なカウンセリング技術を身につけている
●倫理的・法的・社会的問題(ethical-legal-social issues : ELSI)に対応できる
●主治医や他の診療部門との協力関係(チーム)を構成・維持できる
④ 認定遺伝カウンセラーとなりうる基盤の職種としては、看護師,保健師,助産師などのメディカルスタッフや、臨床心理士,社会福祉士,薬剤師,栄養士,臨床検査技師などのコメディカルスタッフ、また生物学・生化学などの遺伝医学研究者やその他の人文・社会福祉系などの専門職が考えられる。


我が国では、2005年より認定遺伝カウンセラー制度が開始され、初めての専門職としての認定遺伝カウンセラーが誕生しました。現在、認定遺伝カウンセラーは、大学や個人の医療機関での遺伝カウンセリングを提供するのみならず、遺伝子検査関連企業、遺伝性疾患の製薬企業、大学教員、政策や患者支援団体などで幅広く活躍を始めています。

 

遺伝カウンセリングとは

はじめに 遺伝カウンセリング(genetic counseling)という概念は、1947年にアメリカの分子遺伝学者のSheldon Reedが初めて提唱しました。その際Reedは、“a kind of genetic social work without eugenic connotations”として、その当時までの優性思想からの決別を示しています。我が国では1970年代に「遺伝相談」という用語で、「遺伝カウンセリング」の普及が始まったとされます。

遺伝カウンセリング

 遺伝カウンセリングとは、医療保健の場において、クライエント(患者)とその家族の目的に応じて相手の気持ちを配慮しながら、相手が理解出来るようにわかりやすく、正確な情報の提供をおこない、その情報を理解したクライエントの意思決定を支援する対話のプロセス(過程)です。
すなわち、遺伝カウンセリングは、「情報提供」と「心理社会的支援(カウンセリング)」によって、納得しての意思決定を支援することです。一般には、臨床遺伝医療の一環としておこなわれ、そのなかで最も特徴的な医療行為です。
遺伝カウンセリングにおいて重要なことは、正確かつ最新の「情報提供」があって、初めて納得ゆく意思決定と心理支援が可能となるということです。これが、いわゆる心理カウンセリングや心理療法とは異なるユニークなところです。
実際の遺伝カウンセリングでは、「情報提供」だけで遺伝カウンセリングのセッションが終わることもあれば、初めから、ひたすらクライエントの話を聴くだけ、すなわち「心理社会的支援」のみで終始するセッションもあります。このバランスは、クライエントの背景や遺伝カウンセリングの目的によって臨機応変に変化します。
また「情報提供」の内容については、疾患やそのクライエントの状況によって異なります。疾患の医学的なことのみならず、実際の生活やその家族の様子、さらに社会資源、支援団体の情報なども含まれます。一方、「心理社会的支援」、いわゆる「カウンセリング」の側面も状況によって異なります。必要に応じて、心理支援の専門家と共に対応したり紹介が必要なこともあります。

遺伝カウンセリングの定義 遺伝カウンセリングの定義として、現在、最も広く引用されるものが、2006年に、米国遺伝カウンセリング学会(National Society of Genetic Counselors)の策定したものです。この定義は、2011年の日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」に引用をされています。


遺伝カウンセリングの定義

遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝的要因がもたらす医学的、心理的、家族的影響に対して、人々がそれを理解し適応するのを助けるプロセスである。このプロセスは、以下の項目を統合したものである:
●疾患の発症や再発の可能性を評価するための家族歴と病歴の解釈(Interpretation)
●遺伝形式、遺伝学的検査、治療・健康管理、予防、社会資源、研究についての情報提供(Education)
●インフォームド・チョイス、あるいは、リスクや疾患への適応を促進するためのカウンセリング(Counseling)

(National Society of Genetic Counselors' Definition Task Force, Resta R, Biesecker BB, et al: A new definition of Genetic Counseling: National Society of Genetic Counselors' Task Force report. J Genet Couns, 15:77-83, 2006より)



遺伝カウンセリングの状況 すべての診療に私たちの遺伝情報が必須になるなかで、遺伝カウンセリングは、様々な状況で行われます。現在、大きく以下の3つに分類されます。

1)生殖に関する(周産期)遺伝カウンセリング
2)小児領域の遺伝カウンセリング
3)成人発症疾患の遺伝カウンセリング
 この分類は、遺伝要因の関わる疾患の発症の時期、遺伝カウンセリングの対象者、意思決定の担い手の違いから分類されています。

遺伝カウンセリングの担い手 遺伝カウンセリングは、様々な職種にて提供されています。1975年に初めてアメリカ人類遺伝学会により、遺伝カウンセリングの定義がなされた際には、その文中に「appropriately trained persons」が担当すると述べられました。遺伝カウンセリングの実践には、日進月歩の遺伝医学の専門知識、疾患の自然歴、治療、健康管理、福祉面などの医学的知識に加えて、カウンセリングの知識、コミュニケーション・スキルが必要とされるので、この「適切な教育訓練を受けた」「専門職」が担当するということは重要になります。
 北米では、1969年から大学院修士レベルにおいて、遺伝カウンセリングを担当する専門職、遺伝カウンセラーの養成が始まり、現在、北米では34のそれぞれに特徴を有した大学院プログラムが開講されています(American Board of Genetic Counselors)。現在、約3,000名の遺伝カウンセラーが資格認定されており、医師と協働し、時には単独で遺伝カウンセリングを提供しています。
また、英国では、従来、看護職が遺伝カウンセリングを担当していましたが、我が国でも、遺伝医学、臨床遺伝医療に関する専門的な知識を有した看護職がチームの一員として遺伝カウンセリングを担っています。
 我が国では、遺伝カウンセリングの専門家の認定制度として、臨床遺伝専門医制度認定遺伝カウンセラー制度があります(両制度ともに日本人類遺伝学会日本遺伝カウンセリング学会による学会認定制度)。我が国の遺伝カウンセラーは、2005年より資格認定が開始され、現在は、専門養成修士課程を修了することによって認定遺伝カウンセラー認定試験受験資格を得ることが可能です。看護師や臨床検査技師、薬剤師、栄養士など医療職の資格保持者の他に、生命科学系、農学系、心理系、教育系など様々なバックグラウンドの認定遺伝カウンセラーが活躍を始めています。詳細は、認定遺伝カウンセラー制度委員会のウェブサイトを参照ください。